詳 細

2013-09-25

【伝@達第五期 私見試論】危機管理に「根回し」を考える

  

  7月中旬、朝日新聞中文網が中国で開設した微博(中国式twitter)が発信できなくなりました。新浪、騰迅、網易、捜狐の大手4サイトにあるアカウントが同時閉鎖された模様。朝日新聞の報道では、各サイトへ再開交渉をするも、2 カ月近く経過した今も進展が見られないそうです。多くの中国人フォロアーを持つ同微博の早期再開が待たれます。

 

 日中間には近年、多くの問題が発生しています。もっとも大きいのは例の島をめぐる紛争。昨年9 月の「国有化」をきっかけに両国の対立は未曽有の高まりを見せ、双方の「領土問題が存在しない」「棚上げの原点に立ち戻るべき」の主張は平行線をたどり、1 年間の貴重な時間を浪費したまま未だ出口が見えません。

 

   この二つのケースの共通点は、先ず、問題解決に要する時間の長さと指摘できるでしょう。日中両国は問題に共同で対処し、それを解決する行動力を無くしたとも言うことができます。これは非常に気になるポイントです。  

 

  「四十にして惑わず」(孔子)と言います。日中国交回復から起算して、昨年はまさに「不惑」の40 年。しかし両国関係は深刻な状況に陥り、記念すべき「不惑」は何処へやら、多くの人が期待していたルビー婚式は勿論、記念行事すらも殆ど行われずに終わりました。夫婦関係に例えれば、「審美疲労(夫婦間の倦怠)」の段階に至ったようです。長期間の緊密な付合いは、彼我の良さを感じ取る新鮮な感度を喪失し、「おしどり夫婦ごっこ」に疲れはて、相手を好ましく思う気持ちをなくし、欠点や嫌なことばかりが目に付くようになったのでしょうか。    

 

   昨今の日中間のトラブルは、大小にかかわらず、その殆どがこのような道筋で理解できます。裏返せば、日中関係は愛情を前面に掲げるような段階を過ぎ、より根本的な結びつきの共同生活という段階に入ったということでしょう。両者の関係は、緊密になればそれに伴い、摩擦も起き、増えます。問題は、発生したトラブルにどのように上手に対応するかです。  

 

  筆者が日本の大学院で勉強し始めた頃の一つの出来事を思い出します。当時、研究所改革の一環として外部から新鮮な血をとの掛け声のもと、外国人や国内の私立大学から研究者を迎え入れました。これは国立大学にとっては、なかなか画期的なことでした。ある日、私は私立大学から招聘されたひとりの先生から、助成プロジェクトに参加するよう誘われました。企画書を手にして読んでみると、私の指導教官が2年間申請して認められなかったものとほぼ同様の内容です。驚いた私に、その先生はコーヒーを啜りながら「君、日本には『根回し』という言葉があるのを知らない?君の先生はそれが分からないのだよ」と微笑みました。

 

   私はこの「根回し」という言葉は知りませんでした。それだけでなく、図書館で「日中大辞典」を引いてみても、解釈はあるものの、これにぴったりの中国語がないことも初めて知りました。まさに日本独自の生活の知恵である。私が感心したのは、研究所の所長でもある指導教官が何年も解決できなかった難題をいとも簡単に解決できたのは「根回し」にあるとの彼の指摘。誤解を恐れずに言えば、国立大学の先生と私立大学先生の違いの一端を見、良い勉強にもなりました。

 

   これはもう20 年前の経験です。以来、私はこの「木の根元の回りを掘ること」という考え方を、日中間のコミュニケーションのコンサルティングに応用するよう留意してきました。実際、両国間の意思疎通に起因する多くのトラブルに遭遇しては、「日本の根回しという言葉を知らないの」という思いをしました。  

 

  2005 年冬、日本の大手家電メーカーが中国でのPR 危機に見舞われました。デジタルカメラのクオリティ、そしてその判別基準を巡り中国の管理当局との紛争になり、対立は見る見るうちにエスカレートしてしまいました。双方ともメディアへの発表やホームページを通じ自説を強調、この対立をメディアも興味本位に取り上げ、たちまち全国的な話題に発展しました。互いに引くには引けないという膠着局面で、我々が危機回避に協力することになり、直ちに対応策を打ち出しました。まずは、新たな声明の発表の中断です。次に、管理当局トップと会談を持ち、意思疎通を図ることに成功しました。これにより、メディアを介さずに当事者同士で直接話し合う環境が整い、問題解決への決定的な転機が訪れました。旬日の交渉で解決にいたりました。

 

    朝日新聞の微博アカウント閉鎖という今回の報道に接した時、私たちは問題解決に必要なのは次の3項目、対立を避けること、意思疎通をはかることそして時をおかずに行動することでした。「根回し」の実践そのものです。日中間に事が起きるとその途端に対立してしまうケースを山ほど見せられてきました。今回はその同じ不幸を避けられたらと思ったからです。  

 

  冷静に対話できる環境を保ち、正しい交渉相手と本音で語り合えば、おのずから解決の道を見出せます。「根回し」という日本的知恵を、国内だけでなく、国際間のトラブル解決にも大いに活用したいものです。上記家電メーカーのケースと同様に、長引いている島をめぐる紛争、解決を長引かせている要因の一つは根回し不足かとさえ思われます。日本のメディアや企業、政府機関には優秀な人材が多い。その彼等の対外関係トラブル解決時のパターンは、硬直的な原則論に終始し、スポークスマン同士の発表合戦になりがちです。私立大からの転入教官の例にみたような柔軟な思考と多面的な「根回し」の知恵が望まれます。  

 

  もちろん、この「根回し」の知恵は問題が起きた後の解決にのみ採用するのではなく、一歩進んで危機の未然防止策や建設的手段にもうまく応用してほしいものです。