詳 細

2013-07-10

【傳@達第四号 私見試論】混迷する外交と民間の取組み

 先月開かれたインバウンド関連の勉強会で、日中関係の現状と中国観光客の誘致対策について、下記のようなことを述べさせていただいた。

 

  ①    最悪のシナリオ回避

 

現場海域では一時、一触即発の状況が伝えられ、有識者の間では「偶発的な武力衝突が起きないか」と憂慮された。幸い両国政府は自制し、事態はエスカレートする事なく、世論も平静化しつつある。海上での突発的な武器使用、戦闘状態突入の危機はひとまず避けられたと考える。

 

② 長期化する外交の対立と民間の融和気運

 

しかし、外交面での対立、睨みあいは長期化の様相。2010年の漁船衝突時に比べ、今回の状況はより深刻かつ複雑である。打開策は容易に見つからないだけでなく、双方ともそれを見つけようとする積極的姿勢が見られない。一方、国民の関心は次第に薄れ、交流再開の気運が見え始めた。政府は政府、民間は民間と二分する状況が生まれつつある。

 

          要請される独自判断と行動

 

従来の中国客インバウンドは政府が主導。民間は大きな掛け声を出すものの、政府に追従する応援団的な存在に甘んじ、主体的な行動をとることは少なかったように思われる。日本では代表的な機構や会社さえ、インバウンドにおいては場当たり的な対応に終始し、中長期的なプランやビジョンを持ち合わせていないところが数多くある。早急な政府間連携も行政のリーダーシップも期待できない現状では、独自の判断と行動は避けて通れない課題となった。

 

一時的な様子見、多エリアへのシフト等々、いくつかの選択肢はあるものの、これらは短期的代替策にはなっても、根本的な解決には至らない。むしろ、危機をチャンスにして、これまで深く考えないまま横並びで進めてきたやり方を見直すきっかけとすればいい。政府間関係に大きく左右されない、危機に強いブランドを構築し、自身を筋肉質の体に鍛え上げ、潜在力の大きい中国客マーケットに攻めて行く。それぞれが独自性を発揮して大きな流れを作れれば、状況は好転させ、新しい次元の「政冷経熱」「国冷人熱」になる可能性さえ期待できるかもしれない。

 

勉強会では充分説明ができなかった部分を、ここで少し紙幅を割いて補足したい。

  

チャンスととらえる

 

この悪化した日中関係が「チャンスだって?」

疑問の声が聞こえてきそうだ。しかし、見方を変えれば、危機も立派なチャンスになり得る。

 

まずは、対中インバウンドを総点検してみてはどうか。

これまでわき目も振らず駆けてきた中国客インバウンド。立ち止まって顧みる。まず明確な戦略作りがなされていたかの検討。例えば、準備、布石のないままの実行ではなかったか。プランニング通りの結果が得られたのか。特に重要なのは他者との差別化である。戦術面において、キャッチコピーの点検から観光資源告知のブラッシュアップ等、検証と実施の好機である。

 

そして、数値化も肝要。例えば中国人入国者数と自社(団体、自治体)誘致客数を比較し、その推移をグラフにして自身のポジションを可視化。来客率が入国率の増減を下回る場合は、誘致策の見直しと増強策の立案・実施が急務である。

 

但し、回顧と点検が目的ではない。ブランド構築に繋げるのが目的である。

 

ブランド力は自然発生的なものでない。ここに大きなチャンスが潜む。国内で基盤を築いたブランドが、海外では必ずしも有力ブランドではない。言い換えれば、国内でさほどのブランドでなくとも、中国インバウンドマーケットではNo.1の地位を築くことができる。また、国内のNo.1ブランドといえども、海外マーケットではランクインできないことさえあり得る。

 

今年は観光立国政策実施10周年である。インバウンドのマーケットで先駆的な企業・自治体においてすら、実はその本格的取り組みは直近の45年に過ぎない。当初は参入者が少なく、新規市場中国で比較的容易にブランド構築が可能だった。やがて多くの企業・自治体が一斉に走り出し、競争も激化の一途をたどった。中国語のパンフレット作成や銀聯カードの導入、免税の取り扱い、旅行博への参加、情報の発信等々。これら煩瑣な作業に忙殺される中で多くは戦略作りを二の次にし、打ち出される誘致策・販促策には大差なく、貧弱なプランはブランド構築のチャンスを逸することになった。東日本大震災の後、トップセールスで中国に赴いた地方自治体の長は30以上を数えたが、携えた誘致策は似たものが多い上特徴に乏しく、中国側業界担当者やメディアに困惑をもたらした話はまだ記憶に新しい。

 

現下の日中関係は黄信号が点滅状態。ランナーたちは一斉足踏みモードに入った。しかし、この局面こそ、ブランド構築の環境が整ったと考えるべきではないか。「先手必勝、早いもの勝ち」の好機到来である。

 

 

PRとは日常の付き合い

 

ブランド構築には近道はない。そして強固に築かれた本物は危機に強い。

およそ5年前、中国人観光客誘致について、2社から相談を受け、PRによるブランディング戦略構築を両社に提案した。この提案をA社は受け入れたが、B社は採用せず、ツアーガイドにリベートを支払う方法を踏襲した。

 

一見すれば、A社の策は遠回りのように映る。中国語ネーミングと戦略的コンセプト作成からスタートし、雑誌、新聞、ウェブサイト等あらゆるメディアを駆使し、展示会、記者懇親会、店内コミュニケーション環境作りと定期点検、店員教育、ポップ作成等多岐にわたる地道な努力を重ねた。一方、近道を選んだB社は、手取り早く観光バス1台に対する謝礼額、あるいはリベート率を決めて臨んだのである。

 

その結果、今やA社の顧客の殆どは、その社名を名指して自ら来店。ガイドに連れられて来店するB社の客とは、ブランドロイヤルティーはまったく違う。当然、知名度の広がり方も大きな差が出る。A社の社名は中国中心都市から地方都市へと輪を描くようにじわじわ浸透、遠く漢字文化圏のシンガポールにも知られるようになった。それに対し、B社は天災、人災等の社会情勢により客足がばらつき、来客数が一定しない。B社に案内された客が、A社に行くようガイドに要求したり、B社の前で下車しながらA社の店舗を探したりする現象も見られるようになった。

 

2008年春当時、A社中国人客月間売り上げ約2千万円、新施策導入後は年々倍増ペースで伸張、当初計画数値以上の実績を挙げている。日中関係の最も厳しい今期も、来日個人中国人に支えられ、右肩上がりの成長は衰える気配を見せない。中国人入国数の増減にかかわらず、着実に中国人客の支持を増やし、安定した売上げを確保できたのは、強力なブランド力構築の賜物である。

 

最近、インバウンドの担当者や企業の責任者から「今の時期、対中国PRをやるべきか」と質問される。これに対する解は、PRの真の意味を考えれば自ずから出てくる。PRとはイベント・情報発信と狭義に理解し、小手先の対処案に終始していては、ブランドの構築はできない。PRとは、文字通りパブリック・リレーションである。分り易く言うと、一種のお付き合いである。上述のA社が行ったことは、どれ一つとってもリレーションシップそのものである。PRをすべきか否かは、答えは自明である。さらに言えば、外交が混迷する時こそ、民間は付き合いを一層深めねばならない。「疾風に勁草を知る」。困難の状況に真の友人を知る。この時期の交流は、ブランド構築に意味があるだけでなく、友情も深まるだろう。このような真面目で積極的なスタンスは、ビジネスはもとより、両国関係を改善に向かわせる上でも意義深いことに違いない。