詳 細

2013-05-16

【傳@達 私見試論】色眼鏡

 

 「日本は、小さいながらも南北に長い国土に特色ある観光資源が溢れ、はっきりとした四季が季節ごとに全く異なる魅力を演出してくれます。」

 

 これは、観光客招致キャンペーンの記者会見のために準備された発言原稿の一節である。意見を求められた時、我々は「小さいながらも」を削除するように提案した。削除しても、内容や文意は変わらないし、元の意味は、いささかも損なわれない。

 

この文言ははたして「削除しなければならない」ものなのだろうか。また残しておいたら何か不都合があるのだろうか。

 

それに対する答えはこうだ。まず、この文言は事実に相違している。

 

世界の230余りの国と地域の中で、日本は国土の面積が62番目で、大抵の国や地域よりも広い。しかも、第10位の人口や第2位(当時)にある経済規模、さらに、世界の物質文明への貢献度や影響力などのこともあるが、それらには言及せずに、面積に限っても日本は絶対に小さい国ではないのである。

 

次に、この文言は、中国の観光客を呼び寄せるのに決してプラスにはならないということだ。

 

中国人であれば、おそらくこう考えるだろう。「日本は小さいし近いから、遅かれ早かれ一回行けばそれでいいし、なにも慌てる必要はない、いつだって機会はあるさ」と。これは、記者会見で伝えたい「日本は南北に細長いので、自然は美しく変化に富み、何回訪れてもその度に新しい体験ができる」ということとは大いに食い違っている。

 

一般的には、「小さく」見られることを望む者はいない。西側先進国の中で、イギリスの面積は日本の三分の二にも満たず、イタリアやドイツも日本より小さい。しかし、彼らが自分たちの国は小国であると強調するのを聞いたことはない。上述した事実・実情を理解した発言者側は「善に従うこと流れるがごとし」とばかり、我々の提案を快く受け入れた。彼らは、これら重要な事実に気付いていなかっただけである。

 

人は常に、他から色眼鏡を通して固定観念で見られ、一面的なイメージを持たれるのを嫌うものである。だが実際は、自分の方が無意識のうちにこのような眼鏡をかけていて、己自身が分からなくなっているのかもしれない。本来は持たれたくないイメージを他人に強く抱かせてしまうのは、時として、他人ではなくて自分の方なのかもしれないのだ。

 

もう一つ話をしよう。

 

小社、日中コミュニケーション株式会社が設立されたのは東京だが、踏み出した第一歩は北海道からであった。10年前、観光立国政策は打ち出されたばかりで、PRの仕方は模索中だった。我々は北海道テレビの井上実于氏、樋泉実氏などの諸先輩と手を組み、新しい取材法“one source, multi-use”を試みた。一回の現地取材で、新聞(人民日報)の特集、ウェブサイト(人民網)の特集や動画番組、テレビ(北京電視台)の特別番組、DVDの出版という異なった4メディアで質量ともに充実した報道を行い、コストパフォーマンスを最大化にするというものだった。これは北海道運輸局の支援を得たプロジェクトで、JTB北海道も全行程でタイアップしていた。

 

日中両国の各方面からなる混成チームは、札幌、夕張、美瑛、富良野、旭川、白老、登別、洞爺湖、小樽と順に回っていった。時あたかもVISIT  JAPAN  CAMPAIGNの初期で、見慣れない人たちの来訪が珍しかったのか、中国人の記者は、行く先々で官公庁、市民の暖かい歓迎を受けた。しかし、それらすべての人が不思議そうに質問してきたことは、「どうしてこんなに寒い時期を選んで北海道取材に」ということだった。しかし、中国記者が彼らに対して、北海道到着当夜、本国に送った第一稿のタイトルは「札幌の第一夜――暖かい白雪の大地」であったと言った時には、人々はさらに驚いた表情を見せた。

 

どうして日本人が「寒い」と感じる北海道の冬を、中国人は「暖かい白雪の大地」というのか。

 

中国人からすれば、東北三省のハルビン、長春、瀋陽の、寒風肌を刺し、手足の縮こまる零下二、三十度のことを寒いというのである。北海道のほとんどの都市は冬でも気温がこれらの土地よりは15度から20度高い。同じ「寒い」という言葉でも、中国人と日本人とでは寒さへの感覚の差は大と言わなければならない。

 

北海道が中国に、冬の観光資源をPRしようとするなら、セールスポイントはまさにその海洋性気候による雪の多さと温暖な気温、冬季の戸外スポーツの最良の環境があるということだ。それに加えて、恵まれた天然の温泉は、冷・暖両面を備えた別世界で、中国ではなかなか得られない体験だ。

 

「廬山の真の姿を知らぬは、ただ、身をその山中に置くゆえなり」。外国へのPRも同様である。まず、わが身を他に置き換えて考え、自分の枠から抜け出る必要がある。相手の視点に立ち、自身を別の角度から見れば、本来抱いていた考えは先入観にとらわれた誤りであったと気が付くことがある。無意識に形づくられた固定観念は、他者の言が己の意見だとの思い違いを引き起こしがちである。分析せずそのままPRに用いたら、往々にして大きなマイナス効果をもたらす恐れがある。しかし、外国に向けてPRするという仕事の面白味も、まさにこの思考と発見の中にあるのだ。

 

ここまで書いた時、北海道の友人からメールが届いた。「桜が花をつけたから、ここ数日中にはきっと満開になるだろう。」それはよかった。北国の大地はやっと――日本人の友達にとっては――「寒い」冬を送り出したのだ。