作品 「印度倶楽部」 台本全文 阿久津 万里
2008-12-15

作品「印度倶楽部」全文  阿久津 万里


ずっと行きたかったインドに、今年の冬ようやく行けた。
なぜインド?っていろんな人に聞かれたけど、自分でもわからなくて、ただ魅かれて、前から行ってみたい国だった。
インドはとてもエネルギッシュな国で、たくさんの色や人で溢れていた。
食べ物の種類も豊富で、私はこの旅行中色んなものを試してみた。
特にカレーは日本で食べるよりも遥かにおいしくて、私は日本でも同じようなものが食べたいと思い、たくさんのスパイスと、パッケージ買いしたレトルトカレーと思われるものを買って帰国した。
 

日本に戻るといつもの生活が待っていたが、このインドで買ったカレーが食べられると思って、楽しみに袋から出してみた。
ちょっとカレーじゃないかなって思いつつも、インド式の食べ方で試してみようと思う。
食べてみるとこれは、酸っぱくて、しょっぱくて、ものすごくまずかった。
あまりのまずさとカレーじゃない事で、期待を裏切ったコイツの事が少し腹立たしくもあって、私が買ったコイツは一体なんなのか、知ってやりたいという衝動に駆られ、調べてみる事にした。
でもコイツは手強くて、簡単に正体を明かせなかった。
 

たった2週間で、インドをちょっと知ったと思った私に、もしかしたらインドが挑戦してきてるのだと思って、旅で出逢ったバックパッカーに早速聞いてみる事にした。

「コレなんか食べた事ある?」
「いや、コレは初めての匂い」
「タイにでもない?」
「いや、なんかちょっと味噌っぽい?」
「味噌っぽい?」
「インドにこんな匂いあったかな?」
手がかりは見つからなかったけど、私がコレを手にしたのは、パッケージのデザインが決め手だったので、デザイナーの友達を訪ねてみた。

「イメージするもの?」
「うん、イメージするもの」
「んん~、ロイヤルホスト(ファミレス)。なんかそういうちょっと洋食な感じ」
「切り抜いてあるし、、、立体になってるからクッキーに見えるのかな」
「レモン風味の豆カレー」
「うん、でも美味しそう」
 

「食い物?」
「わからない」
「え??」
「ちょっとビビるね」
「甘そうな感じしない?」
「え??」
「ちょーまずい!」
「もぉー、ふざけんな」
 

もしかしたら食べ物じゃない使い方なのかもとも思って、メイクさんにも聞いてみる事にした。
「こりゃメイクじゃ使いないね。食べ物じゃん。 臭いし~」
まぁやっぱり食べ物だとは思ってたけど、食を扱う人は、コレをどう思うんだろう。
「コレ舐めていいの?」
「はい」
「なんか、木の実を、、フルーツのジャムみたいな、酸味のあるフルーツのジャムみたいな感じ。多分。よくわかんない」
「この袋の中に、あるものが入ってます。まだわかりません。手触りで何か確認してみてください」
「開けますね」
「おぉ~!すごいねぇ」
「もう一個入ってますよ」
どうやらマジックでは使えるみたい。
 

日本のインドと呼ばれる高円寺にやって来た。ここでならなにか手がかりが見つかるかもしれない。
「こんなものがありまして。何だと思いますか?」
「塗るもんですか?」
「赤みそって感じ」
「チョコレート?」
「あんこみたいじゃない?」
「あんこですか?」
「カレーですか?」
「うわぁ~なんだコレ」
「佃煮みたいな?」
 

「パン」
「どこか海外の」
「what do you think about this」
「I don’t know」
 

日本のインドでは様々な回答がもらえたけど、その国のものはその国の人に聞くのが一番という事に気づき、インド料理やにやってきた。

「コレは何ですか?」
「コレ?私よくわかんない。コレ一回コックさんにチェックしても大丈夫ですか?」
「はい」
「こちらへ」
 

「名前だけですか?」
「名前と何に使うのかです」
「下にいます」
 

「スープとか漬け物に入ってます」
「カレーじゃないんですか?」
「カレーは入ってない」
「ありがとうございます」
 

コレの名前が「タマリンド」という事はわかったけど、今度は「タマリンド」がどんなものなのかを知りたくなってしまった。
スーパーや食料品店で探してみたけれど、日本にはあまり輸入していないらしく、なかなか「タマリンド」は正体を見せてくれない。
でも探し続けると、インドではなく、タイランドという名のお店で、私はようやく「タマリンド」に出逢えた。
 

「木も、死んだら、切って、まな板にするとか、炭をつくる」
「葉っぱも食べるよ」
「そうなんですかぁ」
「うん、若い葉っぱ。茶葉みたいな。料理の臭み消すとか、魚を洗うのに使うとか、木から葉っぱまで全部が使える」
「すごいですねぇ」
私がパッケージ買いしたものは、ヒンディー語で「イムリー」、英語で「タマリンド」。
アフリカや、熱帯地域のアジアで育つ植物。
食用にもなるし、美容にもいいそうだ。
インドでパッケージ買いをした事から始まった日本での食の旅。
私はあまりのまずさと見た目の悪さで、インドからの挑戦状じゃないかって思ったけど、誰が食べてもみんなまずいというこの食材を、インド人はごく当たり前に使っているというから、やっぱりインドはわからない国だ。
 

でもちゃんとしたインド式の調理法なら、きっと私も美味しいと思えるかも。

もっとインドが好きになった。

 

制作 阿久津 万里