「駅舎に登ろう」台本全文
2007-04-15

「駅舎に登ろう」 国本 隆史


テロップ: 国立駅に捧げる

N: 私は、この三角屋根が好きだった。

 

N: 東京のはずれ、国立市。
赤い三角屋根の駅舎は、今年で80歳を迎える。

 

N: この三角屋根は、私のおばあちゃんが生まれたころから、
この町の中心で、町の移り変わりを見守ってきた。
住民にとって「振り返ればいつもそこにある」そんな存在だった。

 

N: 私は、この町で生まれ育った。
そのため、この屋根を見ると「自分のまち」に帰ってきたなあ、
と感じたものだった。

 

帰ってきました。やっぱいいですね国立。

 

N: 「駅舎は町の玄関」である。
移り変わる風景の中で、
この三角屋根は、ずっと変わらず残ってほしいと願っていた。

 

N: ところが、
JR中央線の高架化工事のため、
駅前に工事ヤードが、必要になった。

 

N: JRと東京都は、駅舎をいったん移動させて工事をする
「曵き屋」方式を提案した。
しかし、市議会は与党と野党の対立があり、ひとつにまとまらない。
保存方法が決まらないまま、撤去工期が近づいてきた。

 

現在撤去した跡地については、駅前用地として貴重な経営資源でありまして、
我々株式会社になったということで、株主の期待に応えるために、
有効に活用する展開をすることが、当社にとって有利な、重要な使命があると
考えております。

 

議会のごたごたは仕方がありませんが、
そういう状況でも、議会や行政や市民が残してほしいといっている、
何らかの形で、応える形で。

 

残す知恵というのは、先ほども申し上げた通り、
今まで何遍も話し合ってきた結果、そこには残せない。

 

N: 駅舎がなくなっても、誰かが死ぬ訳ではない。
もちろん、古い建物より新しい方が便利という声も多い。

 

N: 駅舎がなくなってこまるのは、この「つばめ」たちぐらいだろう。
毎年ここで生まれ、そして旅立つ彼らに、来年住み慣れた母屋はない。

 

N: 駅舎がなくなっても、私は食うにも寝るにもこまらない。
ただこのまま何もしなければ、
心にぽっかり穴があいてしまうような気がした。

 

テロップ: 探検、ぼくんちのまわり
駅舎に登ろう

 

今日はあそこ登れますか?

 

登れますよ。

 

終電が終わりさえすれば、
職員がいなくなる。

 

自動改札の電源もきれるので、
入れますよ。

 

でも上のプレハブに人がいる。

 

詰め所があって、
ホームに詰め所があるから。

 

登ってどうするんですか?

 

別に衝動的に登るということではないのですよ。

 

テキーラ飲んだ勢いで登るということではないんですよ。

 

なくなるんだから登ろう、そういうことですよ。

 

テロップ: 「三角屋根の駅舎は10月10日から解体されます。」

 

どう?

 

無理?

 

落ちそう。

 

レンガのとっかかりがない。

 

おもいっきり目があっちゃった。

 


N: 駅舎は町のシンボルである。

 

N: 解体の日が迫るにつれ、駅舎にお別れをする住民の姿があった。
写真を撮る人、絵を描く人、それぞれのやり方がある。

 

N: 私は仲間と、自分たちの思いをこめた映像を上映した。

 

N: タクシー乗り場の人が見ております。

 

テロップ: 国立のまちは今記憶喪失になろうとしている。

 

あの三角がたまらん

 

N: このとき知りあった人が、
駅舎の新しい登り方を教えてくれた。

 

こうやって登るの。

 

壁面に手をかけて。

 

テロップ: そしてとうとう解体当日を迎えた

 

5年後絶対再建。
古いものを大事にしよう。

 

通っていいんですか?

 

なんで歌ってるのか、わかりますか?

 

つぶれるんですか?

 

今日で終わり!

 

もう電車のれないんですか?

 

南口から代行バスが出ておりますので、
そちらの方をご利用ください。

 

電車のらないんだけど、ホームにいってもいいですか?

 

ホームももう、申し訳ございません。

 

申し訳ございません。

 

ホームの方、立ち入りのほう御遠慮いただいておりまして。

 

駅舎の屋根の上に登りたいんですけど。

 

それはだめです。

 

今日最後だから。

 

だめです。

 

最後だから絶対登りたいんですけど。

 

申し訳ございせん。

 

今、国立市には駅舎が二つあります。
右側の暗い方が古い駅舎。
左側の明るい方が新しい駅舎。

 

この二つの駅舎のうち、どちらが一つは、
これから2ヶ月後にはなくなってしまいます。

 

そのことがどういう意味をもつのか、はっきりとはわかりませんが、
今、何かこれまでにはない感情が生まれてきております。

 

だいぶ来ました。

 

ここからがきついんですね。

 

テロップ: 前回はここで失敗。

 

こないだのボルダリングの先生によれば、
端っこをつかんで登れということでした。

 

正面から行くのではなく、端っこをもって進めということでした。

 

大体15mぐらいでしょうか。

 

さあチャレンジ。

 

ついにきました。

 

頂きです。

 

いただきました。

 

ここが屋根です。

 

風が強い。

 

駅舎に登ろう完結です。

 

テロップ: 駅舎に登ったことは、壮快ではあったが、
何の効果もなく、
その後、駅舎はたんたんと解体された。

 

制作 国本隆史
写真 望月沙知
音楽 岩本雅也